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科学とシェイクスピア、そして翻訳の困難~『PHOTOGRAPH 51』/北村 紗衣(武蔵大学)

観劇日:2018年4月6日 ロザリンド・フランクリンと作品の背景  アナ・ジーグラ作『PHOTOGRAPH 51』は、DNAの構造解明につながる研究を行ったユダヤ系イギリス人の女性結晶学者ロザリンド・フランクリンの生涯を扱った芝居だ。もとの台本は2008年に書かれ、アメリカなどで数回上演されたのち、2015年にマイケル...

『病短編小説集』 書籍紹介/石塚 久郎(専修大学)

『病短編小説集』(平凡社ライブラリー・2016年) E.ヘミングウェイ、W.S.モームほか【著】石塚 久郎【監訳】 価格 ¥1,512(本体¥1,400)  愛や戦争は詩、演劇、小説のテーマになるのに病気が文学の主要テーマのひとつにならないのはおかしいわ、と嘆いたのは20世紀イギリスの小説家ヴァージニア・ウルフです。作...

インフルエンザ流行の歴史と公衆衛生の役割 ―“スペインかぜ”と現代― /逢見 憲一 (国立保健医療科学院...

 インフルエンザは、エボラ出血熱や天然痘(痘瘡)とは異なり,致命率は高くない疾患です。しかし、それゆえ、通常の“かぜ”感冒と区別しにくいこともあって、近年のわが国でも“予防接種無用論”が唱えられて,学童への集団予防接種が事実上中断された経緯もあります。ここでは、“スペインかぜ”を含むインフルエンザ流行の歴史を追い、公衆...

企画展レポート3- ハンセン病が語られるときの揺らぎをめぐって /高林 陽展(立教大学)

草津聖バルナバ教会・リーかあさま記念館  そのようなフィールドワークのさなか、いささか想定外のことに出くわした。フィールドワークで訪れた聖バルナバ教会で、草津にある国立ハンセン病療養所栗生楽泉園の男性入所者Aさんにお話を伺ったときのことである。Aさんは、草津とハンセン病のかかわりについて話してくださった。Aさんの語りは...

企画展レポート2- 草津町とハンセン病の歴史をたどるフィールドワークに参加して/パク ミンジョン

 戦前、ハンセン病患者が集まり暮らしていた、今はなき湯之沢地区を案内してくださると聞き、「草津町とハンセン病の歴史をたどるフィールドワーク」に参加してきました。  草津町の一画にあった湯之沢地区は湯治に集まったハンセン病患者と彼らを支える産業が一体となり、やがて行政にも認められた自治集落として発展した他に類を見ない町で...

企画展レポート1- 「ハンセン病と文学展」読書会の記録 /星名 宏修(一橋大学)

ハンセン病文学全集〈第1巻〉小説1(皓星社、2002年) 加賀 乙彦(編集) 価格¥5,184  1930年生まれの沢田さんは、10歳で発病し翌年に楽泉園に入所しました。ちなみに沢田さんが亡くなったのは、この読書会から9年前の2008年10月23日とのこと。偶然とはいえ著者の命日の前日に読書会が開かれたことになります。...

イベント告知
ハンセン病文学から映画へ これからの時代に、いかに伝えるか

【PDF版を表示する】  これまで『あつい壁』『砂の器』『愛する』『熊笹の尾根』『あん』などハンセン病を題材とした映画がつくられてきました。小説を原作とした作品やドキュメンタリーなど様々です。しかしハンセン病療養所で書かれた文学作品を原作とした映画はありません。膨大に遺された作品群はハンセン病療養所での多様な営みを今に...

天然痘ワクチンに使われたウイルスの正体/廣川 和花(専修大学)

種痘の歴史研究における新展開  先頃、医学研究のトップジャーナルのひとつLancet Infectious Diseasesに、19世紀から20世紀の天然痘ワクチンである「種痘」に使われたウイルスについての興味深い論文が掲載されました。ブラジルの研究者Damasoによる論文です。  1796年、ジェンナーが搾乳婦の腕に...

レーウェンフックの「医学研究」 /田中 祐理子(京都大学)

 アントニ・ファン・レーウェンフック(1632-1723)は、17世紀ヨーロッパの学芸の拠点のひとつ、ネーデルラント連邦共和国のアマチュア顕微鏡観察家です。医学史上では「微生物を初めて観察した人」として知られます。感染症と微生物の関係――細菌をはじめとする微生物が、結核や風邪など人間を長く苦しませてきた病気の原因になる...

【メディア掲載情報!】『上毛新聞』で『ハンセン病と文学展』が紹介されました!

[記事1] 「故沢田さんのハンセン病文学 『泥えびす』読み解く」 『上毛新聞』・2017年10月26日・社会面 「県内外から研究者など12人が参加し、それぞれの立場で作品を読み解いた」 「『泥えびす』は昭和20年代の国立ハンセン病療養所『栗生楽泉園』(同町)を舞台に、一風変わった男の生き方を描いた物語」 「草津町温泉図...

松沢病院 アウトリーチ /光平 有希

公開講演会「精神医療と音楽の歴史」(2017年9月16日)当日の様子をご覧いただけます。 <クリックで動画再生>  江戸期以降、日本の医学分野では、予防医学や各種疾病に対する治療の一環として、体系的に音楽を用いることが模索されてきました。その長きに亘る模索が、「理論」だけではなく、本格的な「実践」にまで推し進められたの...

音楽と精神医療、その尊厳の光 /中西 恭子

 9月16日、都立松沢病院本館エントランスで開催された公開講演会「精神医療と音楽の歴史」を聴いた。プログラムは二部構成で、第一部の光平有希さんの講演「精神医療と音楽 再現演奏でたどる戦前期松沢病院の音楽療法」では、東京府巣鴨病院と松沢病院で明治時代から昭和初期にかけて行われた音楽療法の実態が患者対象の院内音楽鑑賞会の人...

大阪での「私宅監置と日本の精神医療史」展を終えて/橋本 明(愛知県立大学)

展示の準備作業  博物館で展示することのメリットは、当然ながら多くの人に見てもらえるということである。さらに、運営上の立場から言えば、博物館にはスタッフが常駐しているので、「店番」を雇う手間がいらないということもある。過去の展示会では、会場の「店番」アルバイトをさがすか、さもなければ私自身が展示会場で張り付いている必要...

歴史(医史)研究と社会との接点 /尾﨑 耕司(大手前大学)

 最初にひとつ現代語訳した史料をあげて、この記事をはじめたいと思います。 影写の由来 (−影写とは敷き写しのこと。ここではこの史料の表面である複製版を指すと思われます)  医制制定の由来については、いまだ明らかではありません。いつから起案をはじめ、誰が関与して立案したのか全くうかがい知ることができません。以前たまたま相...

精神医療時代の芸術のために: 「精神医療と音楽の歴史」講演会参加記 /坂本 葵

 アドルフ・ヴェルフリ(Adolf Wölfli, 1864-1930)という、世界的に有名なアール・ブリュットの芸術家がいる。統合失調症の診断を受けてから生涯を精神病院で過ごしたヴェルフリは、病室で奇想天外な絵を描き始め、独自の形態語彙でノートを埋め尽くし、詩を書き作曲に没頭し膨大な作品群を残した。さて今年の春、ヴェ...

精神疾患とアート その2 中村史子さんのインタビュー<後編>

■飯山由貴との出会い  2014年の秋に東京のギャラリー WAITINGROOMにいった。東京にはたびたび仕事や調査で行くし、そこで訪問するギャラリーは自分でピックアップしている。WAITINGROOM は、気鋭の新しいギャラリーとして注目していた。そこで飯山の作品を観た。飯山の作品をこれまで直接みたことはなく、また、...

精神疾患とアート その2 中村史子さんのインタビュー<前編>

 飯山由貴さんは、2014年に開催されたWAITINGROOMでの展示に続き、2015年には名古屋市にある愛知県美術館で展示を行った。名古屋の展示を企画したのは学芸員の中村史子さんである。中村さんは、WAITINGROOMのギャラリーで飯山さんの作品に出合い、2015年の夏から秋にかけて飯山さんの作品の展示を行った。中...

グレンフェル・タワー火災事件と医療の歴史の不思議なつながり /高林 陽展(立教大学)

 2017年6月14日、ロンドン西部ケンジントン地区の公営住宅グレンフェル・タワーで80名以上の死者をだした火災事件が起きました。日本でも比較的詳細に報道されたのでご記憶の方も多いでしょう。24階建ての建物があっという間に火の手に飲まれ、ほぼ全体が焼け落ちるという、とても印象の強い火災事件でした。しかし、今日においても...

忘れられた神経症 /佐藤 雅浩(埼玉大学大学院)

  「外傷性神経症」という言葉をご存じの読者はどれほどいらっしゃるでしょうか。この言葉は、19世紀末から20世紀の半ばにかけて、事故や災害に遭遇した人々にみられる特有の心身不調を表す言葉として、国内外の医学者たちに使われていた医学用語です。しかし日本国内に限ってみれば、この言葉を知っている人々の数は、現在はもちろん、当...