ワークショップ「コロナの時代の感染症史教材を共創する─歴史総合にむけて─」にて高校の先生方に作成いただいた教材案を公開しました
2021年9月~2022年3月にかけて、「医学史と社会の対話」にて企画・運営したワークショップ「コロナの時代の感染症史教材を共創する─歴史総合にむけて─」において、参加者の先生方が作成された教材案を公開いたします(以下、作成者五十音順)。
作成者:大房信幸(長野県飯田高等学校)
作成者:田川雄一(福井県文書館)
作成者:西村嘉高(青山学院高等部)
作成者:松本祐也(岩倉高等学校)
また、ご参加の先生方に参加記をお書きいただきました。以下も併せてご覧ください。
【参加記1】
2022年より始まった「歴史総合」では、複数の資料を検討することが求められる。しかも「感染症」は教科書に必ず扱うよう文部科学省は指示を出している。しかし従来の教科書では、感染症についてはペスト流行の地図、コレラの流行に関する絵くらいしか載っていない。新型コロナ流行で100年前の「スペイン風邪」が注目されたが、教科書ではほとんど扱われてこなかった。新しい「歴史総合」の教科書記述も充分とは言えない。明らかに教材不足である。
わたし自身も教科書執筆に関わっているのだが、書きたい事柄に対し書けるスペースが少なく、教科書の不完全ぶりを実感した。教材不足を補うあらたな資料づくりの必要性を痛感した。
日々高校生と接していると、実体験と結びつく教材は強いと感じる。平和学習で「戦争は良くない」という言葉にたしかに生徒は共感してくれるが、真に心から発せられたものかと問われると、残念ながら表面的との印象が拭えない。これに対し、関東大震災を扱うと東日本大震災の記憶と重なって生徒の琴線に触れる。今の高校生であれば、感染症の学習は実体験と重ねることができるはずだ。しかし冒頭に述べたように、感染症の教材不足は深刻だ。 今回のワークショップは教材不足を解消する貴重な試みである。開催の知らせを見て、すぐに参加申込みをした。5回のワークショップは充実したものだった。毎回行われる専門家の報告は自分の理解の問題点を確認できた。わたしの初歩的な疑問にも丁寧に答えていただけた。さらに日本全国の教員とのグループワークや研究発表は刺激的だった。とくに地方に残る資料の発掘、自分とは違った授業方法を確認できたことは教員生活の財産ともなった。わたしも教材案を作ってはみたものの、納得のいくレベルにはほど遠い。このワークショップで得られたネットワークを活用して、「感染症」に関する授業実践を深化させていきたい。
西村嘉髙(青山学院高等部)
【参加記2】
新型コロナによって私たちは変化を余儀なくされた。しかし私たちの生活を変えた一方で、忘れていた何かを呼び覚ますきっかけにもなった。それは人類が受け継いできた叡智を知り、活かすこと。つまり歴史から学ぶことの大切さを改めて感じる機会になったということである。教科書に感染症に関する記述がないわけではないが、授業ではこれまで感染症に関する学びの時間が限られていたことも否定できない。今ここにある危機があることを考慮すれば、これから感染症と歴史に関する学びの時間は増えていくであろう。
歴史を教材にしながら生徒と向き合っている私たち教師にとってこんなチャンスはない。知識をなぞらせるだけの授業から、今だからこそできる学びの時間に変えていく良い機会にもなる。どうすればこの貴重な機会を活かしていくことができるのかについて考え、ワークショップに参加しながら、新しい知の扉が開かれることを肌で感じることができた。医学史の専門家からの有益な情報提供に加えて、心を同じくする全国の高校教師とつながる機会も得て、やはり人と接触しながら学びを深めていくことほど面白いものはないし、対話することを通じて気づくことも多いと素直に思った。
感染症はこれまでも人類が幾度となく戦ってきた敵でもあるが、歴史を紐解けば感染症に限らず危機を乗り越えた先に新しい時代が到来する。私たちの祖先も感染症が出現するたびに、私たちと同じように悩み、乗り越えてきた。5回にわたるワークショップの議論は今ここにある危機を乗り越えるための叡智であり、後世につなげていくバトンでもある。
私たちのワークショップで熟成された教材を通じて、新しい社会の到来に向けて一石を投じることができれば幸いである。
松本祐也(岩倉高等学校)
なお、ワークショップに参加されていない高校の先生方におかれましても、「医学史と社会の対話」にて作成しました『高校でまなぶ感染症の歴史 歴史総合の授業でつかえる教材集』を授業でお使いになられた際の実践例や体験記を募集しております。atakabayashi@rikkyo.ac.jpまでご連絡ください。