山下 麻衣 同志社大学(商学部)准教授

経歴:大阪大学大学院経済学研究科で日本経済史・日本経営史を学び、現在は看護婦の労働に注目した近代日本看護史研究を進めています。日本経済史および日本経営史分野で登場する女性労働者の中心は長らく近代日本の工業化に直接的に貢献した紡績業や製糸業で働く女性でした。このような研究分野上の特性に若干の違和感をもったことが看護婦との出会いの出発点でした。そして、研究テーマを決める過程で、歴史人口学や医学史の研究者の方々との交流が多くあったことも影響して、女性の資格職として伝統的に重要な位置を占める看護婦を研究対象として選択しました。

また平成19年4月から5年間、「総合社会科学としての社会・経済における障害の研究」(学術創成研究、研究代表者:松井彰彦(東京大学大学院経済学研究科))に参加させていただいたことがきっかけで、障害を持つ人々の歴史研究を共同研究の形で継続しています。現在は近代に勃発した戦争が障害者の生活にどのような影響を及ぼしたのかに関する比較史研究を進めています。

研究の紹介:2016年末に『看護婦の歴史: 寄り添う専門職の誕生』(吉川弘文館)をまとめましたので、その内容をご紹介させていただきます。

日本における看護史研究の中心的主題は、第1に看護婦の社会的地位の低さの証明、第2に看護婦の社会的地位を向上させるための方法の提示であったと考えています。

しかしながら、社会的地位を議論するためには、まず看護婦の境遇に関する豊富な史料が必要です。次にそれら史料に基づいた看護婦の境遇に関する検証も不可欠です。私の研究はこの2点にこだわって研究を続けてきました。

拙著の特徴の第1は、現在検証可能な範囲で近代日本における「看護婦」と称せられた人々の特徴を教育の場および働く場で場合分けしたことです。このような「場」の違いにより、多様な「看護婦」が千差万別の待遇で働いていたことがわかります。第2は、看護婦の待遇を含めた労働の内容が、どのような基準軸で、誰によって、どのように判断されてきたのかを描きだそうとしたことです。このような視点を持てた理由は、障害を持つ人々を分析する際の方法論の1つとして「障害学」(Disability Studies)を学ぶ機会を得たからだと思っています。

本プロジェクトでは、多様な看護婦の歴史分析を進めていくことはもちろんのこと、看護史の研究成果をより魅力的に社会に発信していけるよう努めます。

(本文では歴史的呼称として「看護婦」を使用しています。)