大谷 誠 同志社大学(人文科学研究所)嘱託研究員

経歴:同志社大学などで非常勤講師をしつつ、同志社大学人文科学研究所の嘱託研究員をしています。同志社大学院文学研究科で西洋史学(文化史学専攻に在籍)を学び、2011年に博士(文化史学)の学位を取得しました。文化史学専攻に入学して以降、近現代イギリスにおける知的障がいのある人々への医師、篤志家、ソーシャルワーカー、地域、家族など、多様なアクターの取組みについて検討してきました。なお、文化史学専攻に入学する前に、同志社大学院文学研究科で英文学専攻に在籍していました。英文学専攻での修士論文では、シャーロット・ブロンテ作の『ジェーン・エア』を取り上げましたが、登場人物の一人で、精神に疾患があるバーサのことが強く印象に残りました。バーサの置かれた状況について歴史学的に考察したいと思い立ったことが、知的障がいのある人々の歴史を勉強したいと考えたアカデミック的動機の一つです。近年では、知的障がいのある人々の親の会について関心を持っており、親の会の誕生の経緯についてイギリスと日本との比較を念頭に入れた研究をすすめています。すなわち、知的障がいのある人々の親の会を通じての日英比較史という新たな学問領域を開拓し始めています。そこで、各大学では、イギリス史を中心とした西洋史だけでなく、欧米と日本の社会福祉史など、多分野にわたる教育を担当しています。

研究の紹介:精神医学・福祉における家族の役割について歴史学的に分析することは、精神医学史の重要なテーマの一つです。そして、精神障がいの一部類である知的障がいの精神医学史的研究においても、家族の役目に焦点を当てた研究は蓄積されてきました。自らの意思表示や他人とのコミュニケーションが難しい(又は難しいと思われる)知的障がいのある人々に代わって、その家族たち(しばしば、その親たち)が、医学・福祉をどのように受け入れてきたのか、又は、どのような医学・福祉を選択してきたのかについて、これら研究で明らかにされてきました。

しかし精神医学史において、知的障がいのある子どもたちを持つ親たちの会の活動内容については見過ごされてきました。実際、イギリスでは1946年に、日本では1952年に知的障がいのある子どもたちの親の会が設立され、さらに日本では1963年に、イギリスでは1970年に知的障がいの一部類と考えられていたダウン症のある人々の親の会が結成されていました。これら親の会は、知的障がいのある子どもたちを抱える親同士の交流を通じて、障がいのある人々への「より良き医学・福祉」を国や社会に求めつつ、その組織を拡大していきました。親の会は、精神医学・福祉と国・社会との懸け橋の役割をまさに果たしてきました。私は、親の会が発行してきた機関紙や親自身からの聞き取りなどを通じて、親の会の歴史について調べたいと思っています。