廣川 和花 専修大学(文学部)教授

経歴:大阪大学文学部、同大学院文学研究科で日本近代史を学び、2008年博士(文学)の学位を取得。修士論文以来、近代日本のハンセン病などの感染症が、地域社会の中でどのような意味を持っていたのかについて研究してきました。近年は、江戸時代以来地域社会の中に存在してきた医療が、いつどのようにして、いまわれわれが想定するような「近代的」なものになったのかということにも関心を持っています。そして、これらの研究や調査の過程で出会ったさまざまな地域の医療に関する歴史資料(これを、医療記録や医療アーカイブズと呼びます)を歴史研究者としてどのように取り扱うべきか、どうやって保存し、活用していけばよいのかといったことについても、深く考えるようになりました。こちらは、歴史学というより、アーカイブズ学という研究分野になります。大学では、医学史に限らず、日本近代の地域史、社会史分野の教育を担当しています。

研究の紹介:かつて日本でハンセン病を患った人たちが、差別を受け、家族との関係を絶たれるなどの過酷な状況におかれたことはよく知られています。しかし一方で、かれらは、地域社会の中で、あるいはハンセン病療養所の中であらたな人間関係をつくりだし、戦後の患者運動の先駆けとなり、自分たちを排除した社会を変革しようとしてきました。このような元患者たちの活動の軌跡は、まさに(元)患者と「社会との対話」の試行錯誤の歴史でもあります。今後はそういった面についての研究が進み、光が当てられればと思っています。

もうひとつの課題は、「アーカイブズ」(記録、史料、歴史資料などとも表現されます)に関連したものになります。医学史研究に必要となる歴史資料を保存し、活用していくためには、方法論の確立や、制度の整備、社会におけるその価値の共有が必要となります。諸外国の中には、医学史が社会的に大きな存在感をもっており、研究者のみならず、一般の人も医学史的な資料を利用できる環境が整っている国もあります。医学史が社会にひらかれるためには、医学史の史料もまた、社会にひらかれていく必要があります。日本の文脈をふまえながら、そのような方向を模索していきたいと思います。